高森山林道
鹿塩マイロナイト帯観察ルート

作成者:河本和朗( 大鹿村中央構造線博物館 )2006/03/17

JANISネット容量不足のため無料プロバイダを利用しています。広告が入りますがご了解ください。

PART1,高森山林道ルートの概要と断層岩類

PART2「高森山林道ルートの試料」へ進む
PART3「異なる原岩から形成されたマイロナイトの特徴」へ進む

[高森山林道]

中央構造線から領家変成帯側の断層岩類とその源岩.
⇒領家変成帯
⇒断層岩類

長野県下伊那郡大鹿村(おおしかむら)鹿塩(かしお)

北緯35度41分56秒,東経138度3分55秒(入口)〜北緯35度41分45秒,東経138度2分55秒.

map01-01

高森山林道は,中央構造線の谷中分水界である国道152号分杭峠(ぶんくいとうげ)のすぐ南から,中央構造線と直交方向に領家変成帯の伊那山地へ延びる林道です.中央構造線沿いのカタクレーサイト(破砕岩),その源岩であるマイロナイト,マイロナイトの源岩である領家変成岩および花崗岩類を観察できます.林道入口付近には中央構造線そのものは露出していないが,南方約2kmの北川露頭で観察できます.

林道は,中央構造線推定位置から直線距離約150mの位置で,国道から分岐しています.ゲート付近のNo.2露頭から,道のり約3.5km(中央構造線から直線距離約1.5km)のNo.13露頭まで,おもな露頭にネームプレートを吊り下げています.なお,国道152号は冬季は通行止めになります.ネームプレートも,12月〜4月は,雪害と落石による破損防止のため取り外しています.

No.13,トーナル岩(花崗岩類)
No.11,片麻岩(高温型広域変成岩)
No.8,花崗岩類を原岩とするマイロナイト
No.8-1,変成岩を原岩とするマイロナイト
No.5,花崗岩類を原岩とするマイロナイト
No.4,原岩不詳のカタクレーサイト
N0.3,花崗岩源マイロナイトを原岩とする塊状カタクレーサイト
No.2,原岩不詳のカタクレーサイト
が見やすく,これらを見ていくと,原岩と,それが変形してどのような見かけになっていくかという比較ができます.

このWeb展示室の内容は,『河本和朗,2005,長野県大鹿村高森山林道沿いの異なる原岩から形成されたマイロナイトの特徴,伊那谷自然史論集6,p49-70』にもとづいています。別刷り希望の方は,大鹿村中央構造線博物館へ請求してください。



国道152号から高森山林道への入口.ゲートは通常,施錠されていない.


林道は,道幅が狭く,工事や伐採木搬出用の大型車両が通行する.すれちがいができる場所がわずかしかないため,分杭峠に車を止め,徒歩で入ることが望ましい.また,低床車は破損のおそれがある.もし車で入るときは,工事や林業用の車両とすれちがえる場所に車を止め,作業のじゃまにならないよう留意する.

map01-02

露頭面は風化が強く,そのままでは新鮮な岩石表面を見ることがむずかしい.またマイロナイト組織は顕微鏡スケールの変形なので,このweb展示室の研磨片と薄片の画像を参照し,ミクロの組織をイメージしながら観察するとよい.
⇒偏光顕微鏡で見る,結晶を通る光の世界(工事中)

試料採取位置は露頭番号を基準にし,林道奥方向(西寄り)は「+」,林道入口方向(東寄り)は「−」を付して,たとえば「No.8+1露頭」のように示している.

[マイロナイト]

高遠〜大鹿地域では,領家帯の変成岩や花崗岩類には,中央構造線から1500m付近からマイロナイト化が見られ,中央構造線に近づくにつれ変形が強くなっている.
マイロナイトという岩石は,その源岩が地温が高い深部にあったときに,焼きなまされつつ,ゆっくりと塑性変形して形成された断層岩である.高温塑性変形は,変形をになう主要造岩鉱物の,剪断応力下における再結晶(動的再結晶)による多結晶細粒化で特徴づけられる.
つまり,マイロナイトは,一般には緑色片岩相以上の温度条件において,剪断帯における強い剪断応力下で,一部の鉱物が粒径を減じながら再結晶しつつ変形した,特殊な変成岩であるとも言える.
再結晶が卓越し始める温度は,鉱物種により異なる.上部地殻深部の深さ10〜15kmの,300〜350℃の温度(緑色片岩相)では,おもに石英が多結晶細粒化して変形をになっている.

この温度条件では,マイロナイト化が強くなるとともに,黒雲母や一部の長石も細粒化している.しかし,角閃石や一部の長石は,細粒化をまぬがれ,もとの結晶のまま残存している.
源岩が,構成鉱物の粒径が大きい花崗岩質岩の場合,角閃石や一部の長石が再結晶をまぬがれて残存する.ただし,長石の場合は,結晶の外縁が「食われ」て丸みを帯びていることが多い.このような,細粒基質中に残存する,相対的に粒径が大きい源岩起源の結晶をポーフィロクラストといい,ポーフィロクラストが目立つマイロナイトを「斑状マイロナイト(ポーフィロクラスティック・マイロナイト)」という.

なお,このようなポーフィロクラストと細粒基質の対比が明瞭なマイロナイトについて,日本地質学会編『日本地方地質誌4中部地方』朝倉書店(2006)で統一された表記法にしたがい,「斑状マイロナイト」と記す.

マイロナイト化の認定は,高木・小林(1996)の再結晶鉱物の粒径によるものと,嶋本ほか(1996)の細粒化をまぬがれたポーフィロクラストと細粒基質の量比によるものがある.
⇒断層岩の定義と分類

[マイロナイト化の程度による区分]

高森山林道ルートでは源岩が多様なために,源岩の構成鉱物の粒径と鉱物比に影響される,ポーフィロクラストの量比にもとづく方法は用いることができない.そこで,ここでは再結晶石英の粒径による区分を用いた.粒径の測定には,平均粒径による方法と,最大粒径による方法があるが,測定が容易な最大粒径により,次の表のように区分した.
なお,再結晶石英粒径の測定は,石英結晶のみからなる石英プールの部分でおこなう.一般に,雲母類や長石類と混在する部分では,石英のみからなる部分よりも,再結晶石英の粒径は小さい.

マイロナイト化の区分 再結晶石英
の最大粒径
その他の特徴
マイロナイト化した源岩 0.50mm以上 一部の石英に,動的再結晶による
多結晶細粒化が見られる
プロトマイロナイト 0.50mm〜0.25mm ほぼすべての石英に,動的再結晶
による多結晶細粒化が見られる
マイロナイト 0.25mm〜0.10mm 黒雲母もすべて細粒化している
ウルトラマイロナイト 0.10mm以下

[カタクレーサイト]

中央構造線から250m付近から中央構造線にかけて,マイロナイトが浅部へ上昇後,高温塑性変形が生じない地温で再び剪断を受け,破砕されたのち再固結したカタクレーサイトになっている.
⇒断層岩の定義と分類

花崗岩類を源岩とするマイロナイトが破砕されたカタクレーサイトの場合,その破砕岩片には角閃石や長石のポーフィロクラストと細粒基質からなる斑状マイロナイトの組織が肉眼でも認められる.

しかしもともと細粒の変成岩から形成されたマイロナイトを源岩とするカタクレーサイトの場合は,源岩がマイロナイトであるかどうかの判定は肉眼では困難である.
一部のカタクレーサイトについては,その源岩やマイロナイト化の履歴について未解明であり,今後の課題である.

[マイロナイト面構造と剪断のセンス]


⇒マイロナイト面構造と線構造

高森山林道ルートでは,マイロナイト面構造はおおむね垂直であり,線構造はほぼ水平である.すなわち露岩を真上から見たときに,上面にXZ面が観察される.
XZ面内の非対称構造から判読されるマイロナイトの剪断のセンスは左ずれである.ただし,現在のマイロナイト面構造は,白亜紀末と推定されるマイロナイト形成時の姿勢から,その後の構造運動により回転しているかもしれない.したがって,現在のマイロナイトの剪断センスだけからは,マイロナイト形成時の剪断が左横ずれ断層運動であったとは,必ずしも言えない.

[WEB展示室の構成]

この展示室では,PART2で,露頭から採取した試料の研磨片と薄片の写真を,中央構造線から最も遠い露頭から中央構造線に向かって,順々に示す.

一方,マイロナイトの見かけは,源岩のちがいにより大きく異なる.そこでPART3で,源岩を
@変成岩
Aカリ長石を含まないトーナル岩
Bカリ長石を含む花崗閃緑岩
に分け,それぞれの源岩ごとに,源岩からマイロナイトへの変化を系列的に示す.

PART2「高森山林道ルートの試料」へ進む

PART3「異なる原岩から形成されたマイロナイトの特徴」へ進む

⇒HOME inserted by FC2 system