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PART2では,高森山林道ルートから採取した試料を,中央構造線から遠い側から中央構造線に向かって,順々に示す.
岩石薄片は,面構造が明瞭な試料については,面構造に平行で線構造に垂直な面(下図のXZ面)の薄片を作成した.
⇒マイロナイト面構造と線構造
偏光顕微鏡写真は,下方ポーラーの偏光の振動方向が写真の長辺と一致するように撮影した.面構造が明瞭な試料については,XZ面と面構造の交線の向きと写真の長辺が一致するように撮影した.偏光顕微鏡写真は,画像をクリックすると大画像と説明が表示される.
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この区間では,一部の石英に多結晶細粒化が見られる.
区間の大部分は花崗岩質岩であるが,No.11露頭に泥質片麻岩がみられる.花崗岩質岩は主要には塊状〜片麻状トーナル岩であるが,花崗閃緑岩が挟在する.源岩にカリ長石を含む場合は,ミルメカイトの形成により細粒の石英と斜長石が形成されている.
偏光顕微鏡写真.画像をクリック⇒拡大
高温塑性変形を特徴づける,動的再結晶により細粒多結晶化した石英が見られる.
多色性を示す褐簾石と黒雲母.
※多色性:下方ポーラー光で見たときに,偏光の振動方向と結晶軸の向きにより,特定の波長の光が吸収される程度が異なるために,色が異なって見える性質.
斜消光を示す褐簾石と,直消光を示す黒雲母
※消光位:クロスポーラー光で見たときに,直交する2偏光の振動方向に対し,結晶の長軸やへき開面などの外形上の直線の向きと,偏光の振動方向(このWEB展示室の場合は写真の長辺および短辺)と一致したときに消光する場合を直消光といい,結晶の長軸が偏光の振動方向と斜交するときに消光する場合を斜消光という.
くさび石=チタン石(高屈折率,高複屈折)
※屈折率:屈折率が高い鉱物は,浮き上がって見える.
※干渉色:結晶内を通過する光の振動方向のちがいによる屈折率の差(複屈折)が大きい鉱物は,クロスポーラーで見たときに色付いて見える(干渉色).複屈折がひじょうに大きい鉱物は,白色に近い高い干渉色を示す.
大型角閃石結晶の,多数の異種鉱物を含むポイキリティック組織.
偏光顕微鏡写真.画像をクリック⇒拡大
黒雲母の層状配列による片状組織
片状組織と平行に,後生的に形成された小剪断帯のカタクレーサイト(破砕岩)
屈折率が低いカリ長石.屈折率が高い周囲の鉱物との境界にベッケ線が見えている.
※ベッケ線:屈折率の差による見かけの縁取り.
カリ長石周縁に生じたミルメカイト(高倍率)
※ミルメカイト:イモ虫状の斜長石と虫食い状の石英が一体に生長した連晶.カリ長石のまわり,とりわけ斜長石との接触部に,熱水の存在下で形成される.
有色鉱物(角閃石・黒雲母)と無色鉱物(斜長石・石英)の縞状配列
この薄片の偏光顕微鏡写真は,雲母類の消光位を避けるため,試料台を反時計回りに少し回転し,片麻岩の面構造を偏光の振動方向(=写真の長辺と短辺の方向)と斜交させて撮影している.
無色鉱物の大部分は石英.斜長石を含む.白雲母と黒雲母は一方向に配列している.
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この区間では,中央構造線に近づくにつれ,石英の多結晶細粒化が試料全体に及ぶとともに,粒径が減少していく.再結晶石英の外形は,正多角形状の“Pタイプ”である.Pタイプ再結晶石英は,長く引き延ばされた形状の“Sタイプ”や,細粒で結晶粒界が不鮮明な“Fタイプ”にくらべ,相対的に高温または変形速度が遅い条件で形成されるとされている.
⇒動的再結晶石英の外形,Pタイプ・Sタイプ・Fタイプ(工事中)
源岩にカリ長石を含む場合は,ミルメカイトの形成により細粒の石英と斜長石が形成されている.ミルメカイト化も塑性変形に寄与したと考えられる.
黒雲母の一部は細粒化して,細粒の石英や長石とともに,マイロナイト細粒基質を構成している.しかし,黒雲母の一部は,源岩由来の結晶のまま残存している.
優黒部の褐簾石・角閃石・斜長石ポーフィロクラストと,細粒多結晶石英プール
優白部に多量に含まれるカリ長石.ミルメカイトの形成により細粒の斜長石と石英が生じている.(高倍率)
黒雲母に富む優黒部.
ざくろ石と斜長石がポーフィロクラストとして残存している.黒雲母の一部は比較的大きい粒径のまま残っているが,細粒基質中にも微細な黒雲母が多量に含まれている.
再結晶石英の粒径は,石英のみからなる再結晶石英プールの部分で計測する.再結晶石英の外形の長辺の方向は,左に倒れる向き(マイロナイト面構造に対し時計回りに斜交)にそろっており,この形態定向配列は,左ずれのセンスを示す.
⇒マイロナイトの剪断センスの判定
石英に富む優白部.
ざくろ石と斜長石のポーフィロクラストと細粒多結晶化した石英.一部に粒径0.5mm以上の石英が残存している.
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石英は細粒多結晶化しているが,黒雲母の細粒化がほとんど見られないため,プロトマイロナイトに区分した.石英を主要構成鉱物とする岩石を原岩とするマイロナイトの場合,その塑性変形機構が,石英の細粒多結晶化によるものであることを明瞭に示す試料である.
一方,次に述べるNo.8露頭の花崗閃緑岩を源岩とするマイロナイト(眼球状マイロナイト)とは30mしか離れておらず,境界断層も見当たらない.No.8+1露頭のトーナル岩源マイロナイトとNo.8露頭の変形のちがいは,中央構造線からの距離のちがいによるものではなく,源岩のカリ長石の有無と石英の量比に由来している.プロトマイロナイトゾーンとマイロナイトゾーンの分帯をおこなう際には,同じ源岩のマイロナイトどうしを比較する必要があり,したがってこのゾーニング境界は見直される可能性がある.
再結晶石英の形態定向配列は,左ずれのセンスを示す.
⇒マイロナイトの剪断センスの判定
角閃石・斜長石ポーフィロクラストと細粒多結晶化石英.中央の斜長石の割れ目を充填した再結晶石英の粒径は相対的に大きく,割れ目の展張により相対的に剪断応力が低い領域に再結晶したためと考えられる.
[高森山林道No.8〜No.5露頭採取試料,マイロナイトゾーン]
中央構造線からの距離670m〜290m
この区間では,中央構造線に向かって再結晶石英の粒径が減少していく.源岩由来の黒雲母の粒径も減少していく.一部の斜長石や角閃石に脆性破断が見られるようになる.カリ長石を含まないトーナル岩と,カリ長石を含む花崗閃緑岩で,変形組織のちがいが顕著になる.No.8ネームプレートから30m東方に,幅約4mの泥質片麻岩源マイロナイトを挟在する.
No.8ネームプレート
「花崗閃緑岩源眼球状マイロナイト」
Augen mylonite derived from granodiorite
中央構造線からの距離670m
粒径10mmを超えるカリ長石ポーフィロクラストが見られる.大型のカリ長石ポーフィロクラストを含む斑状(ポーフィロクラスティック)マイロナイトは,通称「眼球状マイロナイト」と呼ばれている.
No.8花崗閃緑岩源斑状(ポーフィロクラスティック)マイロナイト
試料番号03122217(中央構造線からの距離670m)
カリ長石の大型ポーフィロクラスト
斜長石ポーフィロクラストとプレッシャーシャドゥ
※プレッシャーシャドゥ:ポーフィロクラストの両翼の細粒基質中に,ポーフィロクラストから“尾”のように伸びた,再結晶鉱物の粒径が相対的に大きい領域が見られる.その領域は,剪断の向きにたいしてポーフィロクラストの反対側にあたり,応力が相対的に低いために再結晶鉱物の粒径が大きめになると考えられ,「圧力の影=プレッシャーシャドゥ」と呼ばれる.プレッシャーシャドゥは有色鉱物の混在が少ないために,肉眼でも周囲の暗色の細粒基質と識別できることが多い.
プレッシャーシャドゥの形態は,シグマ(σ)タイプとデルタ(δ)タイプに分けられる.シグマ(σ)タイプはおもに引きずり,デルタ(δ)タイプはおもにポーフィロクラストの回転により形成されると考えられる.プレッシャーシャドゥの非対称な形態から,マイロナイト形成時の剪断のセンスを判定できる.
⇒非対称プレッシャーシャドゥによる剪断のセンスの判定
デルタ(δ)型プレッシャーシャドゥの形態と,再結晶石英の形態定向配列から,左ずれのセンスが読み取れる.
カリ長石ポーフィロクラスト.
左下方の縁辺にミルメカイトの形成が見られる.
No.8-1細粒ざくろ石白雲母黒雲母片麻岩源マイロナイト
試料番号03122302(中央構造線からの距離640m)
肉眼では,暗褐色で緻密な見かけを呈する.
研磨片の拡大観察では,まばらに点在している長石ポーフィロクラストが認められる.
ステップ状のプレシャーシャドゥは,左ずれのセンスを示す.
⇒非対称プレッシャーシャドゥによる剪断のセンスの判定
雲母類の消光位を避けるため,試料台を時計回りに少し回転して撮影.
斜長石(左上),カリ長石(右下),ざくろ石(左下)のポーフィロクラスト.
細粒基質に黒雲母と白雲母を多量に含む.暗色の炭質包有物を含む.
薄片表面とマイロナイト面構造の交線の向きを,写真の長辺と一致させて撮影.(高倍率)
雲母類の長軸の伸びの方向が示す面をSb面と定義する.Sb面は,マイロナイト面構造にたいし,反時計回りに斜交している.一方,マイロナイト面構造にたいし時計回りに斜交する延性剪断面(Ss面)が認められる.Sb面とSs面の斜交関係は,左ずれのセンスを示している.
⇒非対称プレッシャーシャドゥによる剪断のセンスの判定
No.8-2花崗閃緑岩源斑状(ポーフィロクラスティック)マイロナイト
試料番号03122305(中央構造線からの距離620m)
斜長石ポーフィロクラストの周縁に再結晶鉱物が生成している.デルタ(δ)型プレシャーシャドゥの形態はポーフィロクラストの左回り回転を示し,左ずれのセンスを示す.
No.7ネームプレート
「縞状含ざくろ石花崗閃緑岩源マイロナイト」
Mylonite derived from garnet-bearing banded granodiorite
中央構造線からの距離560m
露頭面には,互いに平行な多数のへき開面が発達しているが,へき開面とマイロナイト面構造は斜交している.
No.7含ざくろ石黒雲母花崗閃緑岩源マイロナイト(縞状部)
試料番号00000107(中央構造線からの距離560m)
黒雲母と斜長石に富むトーナル岩質の優黒部と,カリ長石と石英に富む花崗岩質の優白部が互層状にくりかえす,縞状の花崗閃緑岩が源岩であると考えられる.トーナル岩質部分には塑性変形しない斜長石ポーフィロクラストが多量に残存している.一方の花崗岩質部分はひじょうに流動的な見かけを呈している.
ざくろ石を含むが,白雲母は見られない.細粒化した石英の帯が,ざくろ石と斜長石のポーフィロクラストの間を縫うように
発達している.
No.7含ざくろ石黒雲母花崗閃緑岩源マイロナイト(優白部)
試料番号03122307(中央構造線からの距離560m)
橙色のざくろ石(ガーネット)が目立つ.
ざくろ石に脆性破断が見られる.カリ長石周縁にミルメカイトが見られる.
No.7-1角閃石黒雲母トーナル岩源マイロナイト
試料番号03122308(中央構造線からの距離550m)
源岩がトーナル岩質の場合,流動的な組織があまり発達しない.
角閃石と斜長石のポーフィロクラストに富む.黒雲母も外形を保っているものが多い.石英は完全に細粒多結晶化している.
斜長石ポーフィロクラスト(中央),褐簾石ポーフィロクラスト(左下),カリ長石ポーフィロクラスト(左上).斜長石ポーフィロクラストには,脆性破断が生じている.
クロスポーラー観察では,カリ長石ポーフィロクラストの周縁が侵食されるように細粒鉱物の集合体に変化しており,ミルメカイトが形成されていると考えられる.多結晶石英プールの再結晶石英の粒径および外形は,No.7-1角閃石黒雲母トーナル岩源マイロナイトおよびNo.6細粒角閃石黒雲母トーナル岩源マイロナイトと同程度であり,温度および歪速度は同一だとみなせる.したがって,この試料に顕著な細粒基質の発達と無色鉱物の帯の形成には,ミルメカイトの形成が寄与していると考えられる.
中央の斜長石ポーフィロクラストは,左上から右下へ連続する
破断面により,細粒基質とともに破断されている.破断面は無色鉱物(おそらくカリ長石)に充填されている.この構造は,右上から左下へ連続する炭酸塩鉱物に充填された破断面に切断されている.
fig.02-05
この区間では,No.5露頭とNo.4露頭の間およびNo.3露頭とNo.2露頭の間の,北北東走向,高角東傾斜の断層を境に,中央構造線側に堆積岩が原岩であると考えられるカタクレーサイトが分布する.境界断層の西側には斑状マイロナイトを原岩とするカタクレーサイトが分布している.
ざくろ石を含む.無色鉱物はほとんど石英であるが,斜長石を含む.石英の粒界に,圧力溶解により生じるシームが見られる.
高倍率.3枚目の写真は,クロスポーラー光のもとで,「530nm検板」を挿入したもの.(高倍率)
源岩のマイロナイトを,多数の破断面が切っている.岩片内では,変質しているが,ポーフィロクラストと細粒基質からなる斑状マイロナイトの組織や面構造が保存されている.
それぞれの破砕岩片には源岩であるマイロナイトの組織が保存されている.その再結晶石英の形態は,正多角形状のPタイプである.写真上方の岩片には,ポーフィロクラスト翼部のプレシャーシャドゥも認められる.
走向N18E,傾斜80Eの断層を境に,西側の花崗岩質岩を源岩とする斑状マイロナイトを源岩とするカタクレーサイトと,東側の堆積岩を原岩とするマイロナイトを源岩とするカタクレーサイトが接している.源岩のマイロナイトの再結晶石英の形態は,西側の斑状マイロナイトがPタイプであるのにたいし,中央構造線寄りの東側のマイロナイトはSタイプである.
※Pタイプ,Sタイプ:マイロナイト細粒基質を構成する再結晶石英粒子の外形について,正多角形(Porigonal)状のPタイプと,引き伸ばされた(Streched)形態のSタイプに区分する.Pタイプは相対的に高温または遅い変形速度(低ひずみ速度),Sタイプは相対的に低温または速い変形速度(高ひずみ速度)の条件で形成されるとされている.ただし,マイロナイトが形成される変形速度は,いずれにせよたいへんゆっくりしたものである.
マイロナイトの源岩である堆積岩起源の変成岩から由来したと考えられる電気石.(高倍率)
白雲母ポーフィロクラスト(フィッシュ).シームが形成された石英は,カタクレーサイト形成時の石英脈かもしれない.(高倍率)